実際に製品化された1つの製品を軸に、開発~生産~営業に携わった社員の想いに迫ります。

製品概要
・2010年3月発表
『OCTAPAD SPD-30』は、アコースティック・ドラムや世界各国のパーカッション、ダンス・ヒップホップ系効果音など、あらゆる音楽ジャンルに対応した670種類の音色を、8つのパッドを使って自由自在に演奏することができます。前機種からセンサー部が改良されたことにより、打楽器の基本性能である、弱打から強打までを正確に発音するダイナミック・レンジを実現。打感も向上し、表現力豊かな演奏が可能になりました。

楽器は漢字で書くと「楽しい」「器」。使ってくれる人が、末永く演奏を楽しんでもらえるようなものをつくる、ということをいつも念頭に置いています。
□「OCTAPADシリーズは1985年から発売が開始されています。中でも前機種のSPD-20はインドで大人気だと伺いました。」
◆中野 「前機種のSPD-20は、インドでの売上が全世界の売上の約40%を占めていました。SPD-20は地域に根ざした楽器となり、毎日必ずどこかで流れている宗教音楽は、ドラムの代わりにSPD-20が使われているという状態らしいんです。インドでSPD-20についてヒヤリングすると、『次の機種をもしつくるんだったら、この音は残しておいてくれ』 なんて話も聞くんです。要望を総合すると、このままで十分良い製品、ということになってしまうんですよね。」
□「そんな中で新機種をつくるには、前機種の焼き直しではない何かが必要になってきますよね?」
◆中野 「はい。SPD-20は1998年に発売後12年間続いている製品なので、その後継をつくるからにはやはり長く楽しんでもらえる製品にしたいという思いがありました。また、インドでは人気なのですが、新機種をつくるからには全世界で使ってもらえる製品にしたい、そのためにはどうしていこうか、ということを考えました。
オクタパッドシリーズは 『8つのパッドをもつ』 という部分が最も特徴的で、豊富に音色も搭載されていますが、2本のスティックしか使えない一人の演奏では、8つのパッドを十分に活かしきれないんじゃないかと考えました。
そこで、複数の打面の持つポテンシャルを最大限引き出し、演奏者の持つイメージや、演奏中のひらめきまでもリアルタイムに表現できる、演奏表現の可能性が広がる電子パーカッションとして打ち出そう、と、このコンセプトに至ったのです。」
□「コンセプトを実現するために、前機種からどのような進化を遂げたのでしょうか?」
◆中野 「いろいろな部分が進化しているのですが、コンセプトを具現化しているのが、フレーズ・ループ機能です。フレーズ・ループ機能は自分が思い描いたとおりの演奏を実現することができます。たとえばアコースティック楽器の場合は何人も必要な演奏も、OCTAPAD一台で実現できるなど、演奏者の思い描いたことを実現できるように考えました。北米や欧州など、全世界で使ってもらえる製品にしたいという課題も、リアルタイムにイメージどおり音にできる、パフォーマンスができるという点で、全世界で通用する製品になったと思っています。 」
□「パーカッションをリアルタイムに録音して音を重ねてエフェクトをかけていく、という演奏は、今まであまり見たことがない、おもしろいスタイルですね!」
◆中野 「プレイヤーがSPD-30をスティック2本で演奏するだけではなく、新たな演奏スタイルを提案したいという思いがありました。たとえば、SPD-30だけでドラムの代わりにする人もいれば、アコースティックドラムにこれを追加して、アコースティックドラムにない音を足す人もいます。また、小さいので持ち運びできたり、家でもスペースを取らないので打ち込み用途に使われたり。人それぞれの要求に応えられる、懐の広い楽器にはなっていると思いますね。」
□「意外な演奏方法をされているのを見ることはありましたか?」
◆中野 「DJとセッションする、ということに使ってくれた例がありました。今までのパーカッションの演奏は、リアルタイムにずっと叩いていますよね? でもフレーズ・ループを使うと、1回叩いたらずっとループが鳴っているので、常に叩いている必要がないんです。1回打ち込んだフレーズが鳴っているときに手を止めて、エフェクトをツマミでコントロールしたりするのは、見た目にもDJっぽいですよね。そういう意味では、DJとのセッションは、新しい演奏スタイルの表れだと思います。」
□「サンプラーみたいな感覚でしょうか?」
◆中野 「開発している中で、そういう方向にしたらどうだ、という話も出たんですけど、やはりパーカッションとしてのOCTAPADのイメージもあるので、今回完全にはその方向に振らなかったんです。最終的にはサンプラーが必要ないぐらいに、SPD-30だけで通用する仕上がりになりました。実際にプロが使われている演奏を聴くと、どうやってあの音を作っているんだろうと開発者でもびっくりする事があります。 」

□「この製品には、コンセプトの立上げからどのくらいの期間がかかっているのですか?
◆中野 「中断期間を含めると、3年くらいでしょうか。初めに、音を充実させようということで、サンプリングからスタートしたんですよね。アフリカの打楽器はアフリカ人に頼んで演奏してもらって、フランスでサンプリングしたりと、内蔵音源には、本当にこだわりがあります。また、パッドを叩いたときの振動で隣のパッドが反応してしまうクロストークを防止するために、構造や設計をどうするかという面だけでなく、材料コストや組立コストの面からもあらゆるシミュレーションを重ねました。」
□「プロデューサーはあらゆる面から製品を見る仕事です。中野さんご自身の経験の中で、この任務を行う上で活かされていると感じることは何でしょうか?」
◆中野 「入社1年目は製造現場で組立をやっていたんです。マニュアルを書いたり画面に出るアイコンを作成したりしていた経験もあります。プロデューサーとして製品を作っていく上で、今までのいろいろな経験が役に立っているので、さまざまな業務が経験できて、よかったなぁと感じます。」
□「最後に、開発者としての醍醐味をお聞かせください。」
◆中野 「設計している時はパソコンの画面上でのデータなのですが、実際試作品を作成して実物として形になったときは単純に嬉しいですね。OCTAPADは電子部品や樹脂部品、ゴム部品で成り立っています。個々の部品ではただの部品にすぎず、開発中はまともに音も出ません。それが、開発が進むに連れてだんだん成熟していき、部品の集まりが楽器として変わっていく。
開発者達の想いが入っていくとでもいうんでしょうか。
プロの方が演奏して、開発者の想像以上の演奏や使い方を目にしたときは、もう言葉では表現でない喜びや驚きがあります。苦労が報われる瞬間ですね。」
□「想いやこだわりの詰まったこの製品が、これから更に様々な演奏のされ方・楽しみ方をされるようになるといいですね!ありがとうございました。」

学生の皆さんには、演奏したときの気持ちいい!嬉しい!楽しい!という感覚をたくさん楽しんでおいてほしいです。
□「どんなひらめきでもイメージどおり音にする、というコンセプトを実現するために、山根さんが取り組まれたことはどのようなことでしょうか?」
◆山根 「私は打面開発の基礎部分を設計しました。設計上、3つの目標を立てました。 『打感触を良くし、打撃音を静かにする』 『感度分布を良くし、ダイナミクスも良くする』 『クロストークを防ぐ』 の3つです。これらは全て、気持ちよく叩けるという状態にするためです。気持ちよく叩けるとはつまり、違和感を感じないことです。アコースティックのパーカッションを普段叩いている人だと、アコースティックの感触に慣れているので、普段の楽器と異なる硬さのものを叩くと違和感を感じますよね?」
□「たしかにそうですね。違和感を感じないように 『打感触を良くし、打撃音を静かにする』 ために、どのようなことに取り組まれたのですか?」
◆山根 「従来機種は打感触が硬く長時間の演奏で腕が疲れてしまうという問題がありました。そこで打感触を柔らかくすることにしたのですが、単純に柔らかくすると、打撃時の打面からの反発がなく、不自然な感触となってしまったのです。柔らかいけれど適度な反発がある状態を目指しました。」
□「柔らかいが適度な反発がある状態というのは、人によって感覚が異なる気がします。」
◆山根 「もちろん、自身の感覚だけで評価することはできません。この打面は複数の人に評価してもらったんですが、単純に叩いて良い感じかな、と思っても、実際音を出してヘッドフォンで聴きながら叩いてみると、音色によっても感じ方が変わってくるんですよね。たとえばアコースティックの大きな太鼓の音であれば、感触はちょっと柔らかい感じがいいのかなと思うんですが、ビブラフォンなど金属的な音のときに柔らかい感触だとちょっと気持ち悪いな、という違和感があって。じゃあ間をとってこの感触かなという具合に、材質の変更と評価を繰り返しました。」
□「打撃音を静かにする工夫は、どのようにされたのですか?」
◆山根 「打撃音の静かさと打感触の良さは、どちらも打面の硬さに関係します。硬いものを叩くほど、打撃音が大きくなります。このパッドは、表面がゴム、中はスポンジ、下は板金としています。叩いたとき、打面はほぼ変形していないように見えますが、実は結構凹んでいるんです。この変形の具合でゴムとスポンジの関係が決まり、打撃音もその関係によって決まってくるのです。緩衝部材を積層構造にすることで、硬すぎず適度な反発があり、打撃音を静かにすることができました。」
□「 『感度分布を良くし、ダイナミクスも良くする』 ことはどのように実現されたのでしょうか?」
◆山根 「パッドの真ん中を叩くと反応が良くても、ちょっと逸れたところを叩くと急に感度が下がってしまうと、違和感を感じてしまいますよね。これを防ぐために、弱打から強打まで反応するセンサーの種類、センサーの取付け方、打面材料の選定と構造の設計、ソフトウェア処理等、複数のパラメーターを変更しては評価することを繰り返しました。」
□「あるパッドを叩くと、叩いた振動で隣のパッドも発音してしまう 『クロストーク』 を防ぐには、どのように工夫されたのですか?」

◆山根 「クロストークを防ぐこともやはり、違和感を感じさせずに叩くために必要なことです。ある一つの音を叩きたいのに周りの音がなってしまうと、あれ、どうしたんだろう?と思ってしまいますよね。これを防ぐために、従来機種は8つのゴムの打面が一体化していたのですが、各打面を独立構造にしました。そして、従来機種では筐体に直接取り付けていたセンサーを、筐体からフローティングさせた打面に取り付ける構造にしました。
これらのひとつひとつは、完成品が目の前にあると当たり前のように感じることですが、その当たり前の感覚をつくりだそうとすると実はすごく難しく、試奏すると“感触はAの打面だが感度分布はBが良い”という感想をもらうことが続きました。
最終的には部材の組合せで50種類程度は試作しました。打面をフローティング独立構造にしたことで、結果、従来機種よりも打楽器らしさが感じられるルックスとなりました。」

□「試作を量産に移すために生産部門と協力していく中で、苦労されたことはありましたか?」
◆山根 「製造組立時のばらつきや、部品の僅かな変形で性能に差が出ることがわかり、ほぼゼロの状態に戻って打面構造を見直しました。たとえばセンサーは、叩いた感触と出音を一致させるために、変な負荷をかけずに素直に動くようにしなければなりません。けれど、導通させて使うものなので、センサーからワイヤが出ていて、ワイヤを筐体内に止める必要があります。その止め方次第で素直に動かなくなってしまうんです。
この製品は中国のグループ会社で製造しているのですが、そういったことの設計を見直して、かつ組み立てる上での指示を正確に伝えることには苦労しましたね。現地に駐在していた方が熱心に動いていただいて、おかげでかなり助かった面もありました。」
□「表面に見える形状、その内部の構造、全てが当たり前ではなく、ほぼゼロからつくり上げるものであるゆえに難しい業務ですが、それを通して得られるものも多そうですね?」
◆山根 「使う人の身になることは、以前に比べて考えられるようになったかなと思います。テレビで流れているライブ演奏は、自然にドラムに目が行くようになりました。ドラマーは何をどのように使っているんだろう、どういう動きで叩いているんだろう、と観察してしまいます。設計と検証を繰り返していると、どうしても目の前の作業だけに陥りがちですが、人の体の動きとして使いやすいとはどういうことなのか、お客様にとって良いものになっているのか、ということを、以前に比べれば考えられるようになったかなと思います。
また、そんな思考を基に設計した製品が演奏に使われているのを見る瞬間は達成感を感じますし、同時に、改めて自分が設計しているものは人が使う道具であるということを考え、気が引き締まる思いです。」
□「この製品の感触の良さを楽しんでくれるお客様が、これからもっと増えるといいですね!ありがとうございました。」

| 生産部門: | 中国グループ会社へ出向中 (Roland Electronics Suzhou Co.Ltd.) |
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発展途上国らしい勢いを直に感じながら日々生活しています。
□「中国では、どのような生産の流れなのでしょうか?」
◆岩永 「部品は中国国内で調達することを前提とし、完成品まで組み上げたものを、中国国内へ販売したり、世界中の各国に輸出したりしています。」
□「部品も中国で調達しているんですね!」
◆岩永 「そうですね。でも日本国内であれば、量産が始まると安定した生産を続けられる場合が多いですが、こちらでは、今まで何年も生産してきた既存の部品でも、想像もしていないような理由で供給できなくなることが多々ありますね。例えば、中国政府からの指令で節電のために電気供給が充分に行われなくなり、部品メーカーが従来どおり稼動せず、部品供給が間に合わなくなりそうな時もありました。また政府がある部品の生産区域を制限することで、メーカーが拠点を変えなければならない、ということもありました。」
□「そんなこともあるんですね!対応する手を考えるのも、一筋縄ではいかなさそうですね?」
◆岩永 「想像もしていない事が起こり、どうしたら問題を解決出来るのか、分からないことも少なくありません。でも、日本のスタッフを含め、こちらのいろいろな人の意見を聞き、どうにか解決していくことは自分にとって、勉強になっていますね。」
□「岩永さんが現地へ赴任された頃は、もう間もなくOCTAPAD(SPD-30)の量産が始まる頃だったそうですね?」
◆岩永 「はい。実際に生産を開始した時にどういう問題が起こるかを洗い出し、解決をするため、事前に確認生産というのを行ないますが、その確認生産が終わろうという時期に赴任しました。これまで、ローランド・グループ会社である台湾工場で BOSS エフェクター等の生産に携わったことはありますが、パーカッション製品は初めてでしたので、これを機に勉強していこう、という思いがありました。パーカッション製品は当然ですが、叩かれる製品ですので、他のカテゴリーの製品に比べて、機構に関する要素がより重要なため、組立時に発生する作業のバラつきなど、注意しなければいけないな、と思うことはたくさんありました。」
□「実際、問題は発生したのでしょうか?」
◆岩永 「問題は発生してしまったのですが、開発段階からあらかじめその問題を防止するよう設定されていたので、直ぐに対処をすることができました。というのは、あるパッドを叩くと、他のパッドの音色も発音されるクロストークという問題です。発音するための各パッド についているセンサーとは別に、もう一つセンサーが付いており、それが受ける信号から判断し、クロストークが発生しないように制御されています。その問題は製品検査時に発生しましたが、あらかじめハードウェアに仕掛けがあったため、ソフトウェアの修正により、改善することが出来ました。また、各パッドの内部には板金が貼り合わせてあるのですが、その隙間に空気が入りこまないように、組立装置を工夫することも必要でしたね。」
□「開発担当が設定したコンセプトを実現する製品をつくるために、問題が多々発生する中で製造工程をまとめ上げていくという作業は、中国に赴任されて初めての製品ということもあって、より大変でしたでしょうね。」
◆岩永 「赴任した当時は、誰に何を言えばスムーズに事が運ぶのかすら分からなかった状態でしたから、どうにか頑張って問題を解決出来た時はどんなに小さな事でも嬉しかったですし、自信にもつながりました。」
□「作業者の方とは、どのようにコミュニケーションを取られているのですか?」
◆岩永 「実際の組立作業者やそれに関わる方は20名程度おり、全体をまとめるライン長もいます。ライン長は安心して仕事を任せられる方で、生産に対しては、きちんと指示をすることで、柔軟に対応してくれています。ただ、細かいニュアンスがうまく伝わらないことは多々ありますね。中国語は、台湾に行く前から社内中国語教室を利用して勉強していたのですが、やはり難しく、今はまだ通訳の方にお願いしています。」
□「台湾のグループ会社社員は、楽器を演奏する方もいると伺っています。中国ではいかがですか?」
◆岩永 「社内は楽器を自身で演奏される方はあまりいないですが、外を見ますと住宅内でピアノを弾く人が増えているという話は最近よく聞きますね。だんだん豊かになってきて、楽器に興味を持つ人も増えているんでしょうね。OCTAPADは、ぱっと見ただけでは何をする製品か分かりにくいですが、実際にどれだけのパフォーマンスがあるか様子が分かれば、スタッフも生産に対するモチベーションが上がっていくと思います。その辺りは、これからの工場環境づくりの課題かもしれないですね。」
□「中国でつくった製品が、中国市場でも評価されるようになるといいですね!ありがとうございました。」


開発陣の製品に対する熱い想いを、如何に市場に伝え広げていくか。
マーケティングとは開発と市場を製品というタスキでつなぐ仕事です。
□「開発担当からOCTAPAD (SPD-30) の仕様を最初に聞いたとき、この新製品についてどのように思われましたか?」
◆西 「これまでの打楽器の概念を打ち破る製品だと感じました。 『何かを叩いて音を出す』 という行為は従来、音が鳴るものを叩いて発音するだけでした。 打楽器がこの世に出てから何千年もの間常識であったその概念が、OCTAPADに新たに搭載されたフレーズ・ループ機能によって革命的に変わると思いました。 リアルタイムに音を録音していって、その録音している最中に演奏者がひらめいたアイデアをどんどん音に変えることができる。 気が変わったらそれらを消して、また自由に新しいものに作り替えることができる。 これはすごい、と。」
□「そんな新しい演奏スタイルを実現できるフレーズ・ループ機能を、より前面に打ち出して宣伝していこうと思われたのですね?」
◆西 「はい、そうです。ただ、最初は悩みました。前機種は12年前に発売されたSPD-20という製品で、古いデザインやセンシング技術を採用していましたが、インドや中南米では楽器としてのスタンダードな地位を固めていて、非常に人気のある製品でした。 そんな状況の中で 『OCTAPADは新しい演奏スタイルを提案する製品です』 と宣伝しても、従来製品とは違う操作に戸惑うユーザーも出てくる。長年使い慣れた楽器と違う部分があるので、否定的な反応が出ることも予想できたからです。
でも、開発陣はその状況を十分知りつつも、OCTAPADは欧米市場拡大を視野に入れて新しい演奏スタイルを提案するべきだという考えでした。では、マーケティング担当としてはどうすべきか。旧製品から新製品へのスムーズな移行を図るなら、 『音源やパッドを改良し、使いやすくなった新SPDシリーズ』 と打ち出すこともできました。 しかし、それでは開発陣の熱い想い、すなわち 『ローランドらしい新しい演奏スタイルを提案する』 というメッセージは伝わらない。 ここはひとつ新しいことに賭けてみよう、と。」
□「お客様に対しては少し、挑戦的とも言えるメッセージということでしょうか?」
◆西 「そうです。今流行している製品をもとに、それに似せた製品を作れば、ある程度の売上を確保することはできると思いますが、それでは発想自体が古いものになり、ローランドらしくない。 将来的にローランド製品のファンを増やし、市場を広げていくためには、より斬新でユニークな製品を次々と出していって、そこに新しい価値を見出してくれるユーザーを増やさなければならない。 また、ローランドという会社を、 『既成概念に捉われず常に新しいものにチャレンジして市場を創造していく会社だ』 と一般の人からも評価してもらえるようにしたい。 その想いを開発陣と共有した上で、OCTAPADを 『新しい演奏スタイルを提案する製品』 として打ち出すことに決めました。」



□OCTAPADの打ち出し方を「 『新しい演奏スタイルを提案する製品』 と決めてから、具体的にどのような販促活動に取り組まれたのですか?」
◆西 「製品デビュー前の段階で、当社が制作する販促ビデオや海外の重要なイベントで演奏をしていただく仕事を、当社の製品開発にも携わり、我々との親交も厚いベルギー在住のプロ・ドラマー、マイケル・シャック氏にお願いしました。 最初のビデオ撮影の際、OCTAPADの持つ新しい可能性について、マイケル氏と徹底的に協議しました。そのコミュニケーションの過程で 『フレーズ・ループ機能を中心に据えた演奏のノウハウ』 が自然に練られ、新しい提案の形が見えるようになり、やがて完成度の高いデモ演奏がマイケル氏の手によっていくつも作り上げられました。」
□ 「従来機種の評価が高かったインドでは、どのようなデモンストレーションをされたのですか?」
◆西 「2010年4月末から実施したインド主要5都市でのOCTAPADデビュー・ツアーでは、それまでの経験を活かしつつも、現地の文化や趣向に合わせた内容にしました。 OCTAPADに内蔵されているインド民族楽器の音色を用いて、フレーズ・ループ機能を駆使しながら、ユーロ・ビートの上にアジア的なメロディーを乗せて新しい音楽をリアルタイムに作り上げていく、という演奏を披露しました。インドの多くのミュージシャンにとってはそのような演奏を聴いたのは初めてだったと思います。 また、そのイベントの様子を、当社のインド販売代理店の方々が現地の新聞に写真付き記事で掲載するという演出も行ってくださいました。
インドでは、OCTAPADという名前はひとつ楽器のジャンルとして、ピアノやバイオリンと同じような扱いを受けています。 マイケル・シャック氏の素晴らしいデモ演奏のおかげで、インドではOCTAPADがデビュー当初から非常に高い評価を受けることができました。」
□「発表前に懸念されていた、従来機種と新製品OCTAPADを比較したときの否定的な反応はありませんでしたか?」
◆西 「当然ながら、ありました。ユーザーのニーズがまだフレーズ・ループという新機能にはないのに、画一的なストーリーで打ち出したため苦戦したこともありました。やはりお客さんあっての商売ですからね。 実際に製品を発表してみると、新しい提案に合う市場と合わない市場があることがわかりました。」
□「フレーズ・ループの新提案が合わない市場には、どのようにアプローチされたのですか?」
◆西 「たとえば日本では、V-Drumsではなく、アコースティック・ドラムのセットの中にOCTAPADを組み込んで、 『現在のアコースティック・ドラムではできない電子ドラムならではの表現力をコンパクトに補ってみてはいかがですか?』 と違った角度から提案をすることで、既存のアコースティック・ドラマーのニーズに合致し、結果的に製品の価値を高めることができました。 また、機能云々ではなく、 『ドラム・セットとしてライブに自分で持って行ける』 という可搬性をアピールすることで良い結果が出ることもありました。製品にはいろんな見方や使い方がある、ということです。」
□「デビュー・イベントの他には、どのようなことに取り組まれたのですか?」
◆西 「OCTAPADは決して誰もが簡単に使える製品ではないので、それをどのように社内の営業スタッフや販売店の方に伝え、どうしたら自信を持ってお客様に製品の良さを伝えられるかをいろいろ考えました。その視点がたとえば、製品の良さをハンズオンなどで体感する社内向け研修の実施や、製品デモやフレーズ・ループのチュートリアル映像を作って、当社のHPやYouTubeに掲載することにつながっています。 また、カタログの制作や製品Q&A情報の掲載も行っています。 マーケティング部にいると、世界各国の営業スタッフからプロモーション案に関する相談や、製品に関する細かい質問をたくさん受けるんですよ。」
□「非常に多岐に渡る仕事ですね!」
◆西 「自分を必要としている方から依頼を受けると、私もなかなか仕事を断れない性格なので・・・(笑)。 仕事は増える一方ですけれど、製品を通じて世界の人たちと気持ちがつながることが一番嬉しいですね。それは何物にも替え難いグループとしての販売力となって必ず結果に現れるものなんです。 独創的なアイデアで製品を開発していただいたスタッフの熱い想いを、全世界のユーザーにきちんと伝えるために、会社として発信する情報をひとつひとつ考えながら作り上げていくこと、それが我々マーケティング担当に課せられた仕事だと思っています。」
□「ありがとうございました!」