今回、どのような経緯で電子チェンバロを開発することになったのですか?
- ローランドは20年前から電子チェンバロを製造していたんですね。当時は、どんな方にどのような場面で弾いていただくか、はっきりしないまま開発したという反省点があったんです。
そこで、お客さまからのご意見を参考にしながら、もう一度、レンタルで利用されたチェンバロの実情を調べてみたところ、バイオリン、フルート、リコーダーなどとの小さなアンサンブルコンサートで多く使われていることが分かりました。
じゃあ今回は、そういう方々に便利に使っていただけることを明確な目標にして開発しようということになったわけなんです。

具体的にはどのように工夫されたのですか?
チェンバロという楽器は、17世紀にすでにコンサートで音量が足りないということで、それを改善するために、弦を爪ではじくという仕組みをハンマーで叩くようにしたのが偶然ピアノの始まりになったんですね。
最初のピアノをつくったのは、イタリアのクリストフォリというチェンバロ製作者だったわけなんですけども、クリストフォリが現代に生きていたらどうするかな、チェンバロを楽器としてさらに発展させるとしたら?、チェンバロ屋さんならどうしたかな、ということを考えてみたのです。
電子チェンバロとして、チェンバロの良さを踏襲することはもちろん、音量を大きくすること、アンサンブルする楽器に合わせて簡単にチューニングできること、バロック時代の調律方法にスイッチひとつで変えられることなどが考えられました。これらはアコースティックではとても難しいんですが、電子なら可能なんですね。
また、チェンバロは非常にデリケートな楽器ですから、運搬したり、演奏者自身がメンテナンスするのは大きな負担なんです。高価ですしね。その点でも、コンパクトで運びやすく、どんな場所でも安定した音が提供できるというのは電子だからこそ実現できるメリットだと考えました。

最先端というイメージのローランドがチェンバロを手がけるのは意外な気がしますね。
楽器に電子技術でどんどん新しい機能をつぎ込むのは間違いで、今まで培われてきた音楽的センス、演奏技術などを大事にして、問題点を電子で改善して演奏していただくことが楽器メーカーとしての使命だと思っています。
ローランドは最先端だけでなくルーツも見ていますから、これはローランドが手がける意味があると思ったんですね。
そこで、チェンバロだけでなく、全体を見て開発していくために、「ローランド・クラシック・シリーズ」という製品を開発する部署をつくって取り組むことにしました。
実際の開発はいかがでしたか?
当初から「大ヒットさせたい」という気負った気持ちはあまりなかったですね。特殊でひねった技術を使ったわけでもありません。それより、チェンバロの歴史やチェンバロがふさわしいシチュエーションというのを深く考えました。
私の世代は50才くらいまで余裕がありませんでしたが、今の人たちはゆとりがあります。そのゆとりをぜひ音楽に向けて、そんなときに、チェンバロの音をぜひ楽しんでいただきたいという気持ちで開発しました。チェンバロの音は静かですからね、落ち着いたライフスタイルにぴったりだと思いますよ。
リラックスした雰囲気で「ちょっと弾いてみようかな」と手を伸ばすような・・・、そうですね、ぜひ、2台目の楽器として持っていただきたいですね。
良いところはそのままに、今のライフスタイルに合わない部分だけを現代に合わせましたので、チェンバロの良さをよりアピールできると思います。国内はもちろん、海外でも受け入れられる楽器だと思いますよ。

仕上がったC-30はいかがですか?
私はね、この楽器を見て、お客さんの第一声はどのようなものかと、とても楽しみにしていたんですよ。そうしたらね、8割の方が「かわいい」とおっしゃるんですよ(笑)。ローランドの楽器では初めてのことでね、意外でしたが、あぁ、こんな風に親しみを持って受け入れていただけたんだなと嬉しく思いました。
チェンバロは鍵盤楽器ですから、ピアノやオルガンを弾く人がすぐに弾けます。親しみある音質ですしね、そういったイメージにぴったりなデザインに仕上がったと思っています。
デザインといえば、とても素敵な絵やステンドグラスですね。
チェンバロは装飾にとても力を入れています。C-30では、そのイメージで、絵やステンドグラス風な部分を取り入れたんですけれども、これらは気に入った柄に差し替えることができるんですよ。
絵の印刷は、風合いを出すために特殊な印刷を施しています。これはグループ会社のローランドDGの技術を活かして実現しました。

音量、メンテナンス、運搬などの他に、電子化するメリットはありましたか?
実は、強弱のつくチェンバロの音を入れてあります。ただ単に古楽器のコピーをしたのではローランドがやる意味はないと思いましたから。これはなにも変わったことをしようと思ったわけではなく、クリストフォリはチェンバロの音楽表現を豊かにするために強弱をつけようとしたんですね。 ピアノ(弱)の音だけでなく、フォルテ(強)も出そうと思った、だからピアノ・フォルテという名前のチェンバロをつくったわけです。それが注目されて、当時は別なピアノという楽器へ発展していったんですが、現代の電子技術ならチェンバロの音のままで強弱をつけることが可能です。いわば、「チェンバロ・フォルテ」ですね、それをつくろうと思ったんです。
ピアニストにとっては、強弱がつくのは当たり前で、その練習を積んできたんですから、その演奏技術をフルに活かして、自然に弾いていただけると思います。
他にも、チェンバロの音が好きな方が好みそうな音、たとえば小型オルガンやフォルテピアノなど、懐かしい雰囲気の音色がいくつか搭載されていて、スイッチひとつで切り替えられます。MIDIを使ったりして記録を取って、その場ですぐに楽譜にできるという点も電子ならではですね。
思い入れとこだわりのC-30、どんな方に弾いていただきたいですか?
チェンバロに親しみを持っている人はもちろんですが、たとえばね、バイオリンでもフルートでもいいんですけれど、若い音楽家が友人を招いてホームコンサートを開きたい、親しい人に聴いてほしいというときに、ご家庭のリビングなんかでね、伴奏楽器としても使っていただきたいですね。

意外ですね、C-30は主役ではないんですか?
2枚目が引き立つためには、1枚目や3枚目が重要なんですよ。チェンバロは3枚目ではないでしょうから、1枚目でしょうか(笑)。
最後に、ローランド・クラシックは今後どのような楽器を開発していくのでしょうか?
登場した当時は、高額だったり、メンテナンスの問題などで、十分にその魅力を理解されなかった楽器を今の技術で改善して親しみやすいお値段で提供して、広く普及させたいと思っています。歴史も音楽資産も十分にある魅力的な楽器なのに、時代の変化や流行に合わずに次第に忘れられていった楽器ですね。
種類は限定していませんよ。
たとえば、そうですね、30年前に作られていたシンセサイザーですら、当時たいへん高額で一般の方には手が届かなかったんですから、シンセサイザーも既にクラシックと呼べるかもしれませんね。
ローランド・クラシックの中にははいりませんが、Vアコーディオンなども、とても魅力的な楽器なのに重さや価格、扱いにくさなどがあり、電子化することで新たな魅力を吹き込むことができ、ユーザーの方に喜んでもらえた例だと思います。
とても楽しいお話をありがとうございました。
こちらこそ。電子チェンバロは夢のある楽器ですから、ぜひ、多くの方にかわいがっていただきたいですね。